『絹常』(加東市東古瀬)は、江戸末期、初代当主・小紫常蔵が播磨国小野に於いて修行ののち、独立し創業したと伝えられる。
絹常作品が高い評価を受けるのは、その技術の高さにある。その手になる人物の表情、金糸・銀糸の流れ、『糸より』と呼ばれる技法によって生み出される絶妙なぼかしは、作品に勢い・躍動感を与える。
虎の『表情』一つを見ても、下顎や腹の部分は金糸と白糸とを縒り、金糸から徐々に白くして行くと云った技法が用いられ、その毛並みまで刺繍で表現すると云う風に、非常に高度な技術を以って仕上げられている。
又、龍の鱗に於いては、通常の絹盛りの上に金糸を載せていく方法の他に、『一枚鱗』と呼ばれる特殊技法が用いられているものもある。これは厚紙を鱗の形に型どり、その上に金糸を載せ、更に龍の胴体に一枚づつ刺し込んで行くと云うもので、非常に繊細で手間の掛かる作業である。故にこそ、仕上がった龍は非常に豪華で見る者を圧倒する迫力がある。


 技法 


表情

作品の出来栄えは顔の表情で決まると云われる。顔の製作は、下絵の上に綿を盛りながら鼻や頬の膨らみを形成し、眼にはガラス目を使用している。血走った目が鋭さを強調し、鼻や頬の膨らみ、口の表情によって力強い武将の顔を引き立たせる。
糸より

糸よりとは、色糸同士を縒り(例えば金糸と白糸なら、金色から徐々に白くして行く)、毛並みまで刺繍で表現すると云った非常に高度な技法。
一枚鱗

通常の綿盛りの上に金糸を載せていく方法ではなく、厚紙を鱗の形に型どり、その上に金糸を載せ、これを龍の胴体に一枚ずつ指し込んで行くと云う特殊技法で、非常に手間の掛かる作業ではあるが、それ故にこそ、その仕上がりは見る者を圧倒する迫力がある。



初代 小紫 常蔵 こむらさき つねぞう 享和 2年(1802) 明治 6年(1873)
二代目 武八 ぶはち 明治15年(1882)
三代目 常三郎 つねさぶろう 明治 5年(1872) 昭和 8年(1933)
四代目 雅康 つねやす 明治33年(1900) 昭和49年(1974)
五代目 敏正 としまさ 昭和11年(1936) 平成11年(1999)
六代目 常正 つねまさ 昭和50年(1975) 現在


屋台文化保存連絡会 研究室著

意を縫い技を織る

美を極めた縫師『絹常』の世界より



 絹常作品 



− 佐保屋台 −


上中屋台水引幕『宇治川の先陣争い』
梶原景季(磨墨) 佐々木高綱(生月)
東古瀬屋台水引幕『須佐之男命八岐の大蛇退治』



− 昼堤燈 −

布団屋台の四隅に取り付けられた刺繍入りの飾り堤燈の事を昼堤燈と云う。図柄は龍が最も多く、虎・唐獅子・鳳凰・麒麟などの神獣や善獣が刺繍される事もある。


阿吽の龍(白地)
作:三代目 常三郎
製:昭和4年(1929)

所有:滝野・稲荷神社/高岡北東組

本作品は、白地に龍が刺繍され、背景に波をあしらい作品を引き立たせている。
阿吽の龍(鱗地)
作:四代目 雅康
製:昭和23年(1948)

所有:西脇・春日神社/西田町



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